1:叔父さんのビデオテープ -1

怪談

(読み終えるまで10分)

公開にあたって 

このたび、僕自身が見聞きし、取材した怖い話を、漫画や小説ではなく、ドキュメント風の文章で発表していくことにしました。

まずは簡単に自己紹介を。

僕は怪談、都市伝説、ホラーの類が大好きで、エンターテイメントとしてゾッとすることに快感する輩だけど、祟られるのはお断りしたい。そんなポジションの者です。

本職は漫画家です。

漫画家なら、せっかくの怖い話をなぜ、漫画で描かないのかというと、怖い話って、文章にして想像力をかきたてるほうが恐怖が増すのじゃないか、という思いがあるからです。

背筋が寒くなりたい読者は、どうぞお付き合い下さい。

発端:3年前のツイート

今回の怖い話は、僕の3年前のツイートが発端となる。
まずはこちらを読んでください。

https://twitter.com/kurususatoshi/status/1294659481813434369  

僕には『トモミちゃん』という従妹がいます。

彼女は『霊感』としか言えない感性を持っていて、子供の頃から不思議な体験をしてきたらしいです。

自分にそんな従妹がいるってことに、まともな社会人なら、
「ふうーん、そんなこともあるんだね」
で終わりでしょうけど、僕は、
「身近にそんな面白い人がいるなんて、漫画家としてラッキー!」と思いました。

『僕は漫画家として最高のネタをつかんだぞッ!』って叫んだ岸辺露伴の如く、ワクワクしました。

この話も、トモミちゃんから聞いた話です。

何気なくツイートしたこのプチ怪談話。

・・・実は、この話には、今まで僕も知らなかった、ある続きがあったのです。
この話の恐るべき真相が・・・。

トモミちゃんへの取材

初めてこの話を聞いたのは、まだコロナが流行する以前の、2019年、金木犀が香り始めた秋頃の日曜日の午後。

場所は、彼女の家の近くのファミレスにて。

従妹とはいえ、仲がいいわけではありません。
しかもお互い結婚して家族がいることもあって、向こうのご主人に誤解を受けることのなきよう、僕は友人を連れていった。
(ちなみにその友人は「ふうーん、そんなこともあるんだね」でおなじみの、まともな男性である)

これから読んでもらう話の主役はトモミちゃんであるため、少し人物像を紹介しておきます。

・顔立ちは松井玲奈似。
・冷たい目をしている。(その目は心の冷たさを映しているのではなく、冷たく光る宝石のような、透き通る目である)。
・つまり、とても美人である。
・年令は、現在43歳だが、10才ほど若く見える。身長は155cmくらいでやせ型。髪はしなやかにポニーテール風にまとめている。
・女子力が高く、綺麗でいる努力をしていることが容姿に表れている。
・頭がよく、有名な大学卒で、行動経済学やら何かの研究をしていた。(聞いても理解不能だった)
・家族はご主人と、10歳の娘が1人で、裕福な家庭を築いている。
・ちなみに、ホラーの類は全く好きじゃない。(霊感があったら逆にそんなものなのかも)

ファミレスの窓際の席で、単品499円のドリンクバーの安っぽいアイスコーヒーを飲みながら、軽く近況を話し合った後、僕の目的を説明した。
話を録音することも了承をもらった。

こちらはワクワクしてきたものの、トモミちゃんとしては、霊的体験をあまり話したがらないようだった。

そりゃそうか。あんまり気持ちの良い話でもないだろうし。

でも、僕の漫画を応援するつもりで、ひとつ聞かせてくれたのが、ツイートした先ほどの話です。

それを詳しく書きます。

トモミちゃんの霊感

時代は1990年。昭和から平成へ変わった直後の年。
米米CLUBが浪漫飛行し、おどるポンポコリンで全国民が踊っていた時代。
トモミちゃんが10才の時に体験した話である。

その叔父さんはとても気さくで、親戚の子供たちをかわいがり、優しかった。

妻である叔母さんと2人暮らしで、親戚の中でも有名なおしどり夫婦だった。子供がいなかっただけに、甥や姪がかわいかったんじゃないかと思う。

趣味の映画鑑賞で集めた映画のビデオテープは物置がいっぱいになるほどで、どんなジャンルでも批評家並みに観て楽しんでいた。

好きな作品として『ニュー・シネマ・パラダイス』と言っていたのをトモミちゃんは覚えている。(やっぱり子供が好きだからかもしれない)

また若い頃は、俳優として舞台に何度か出演したり、自分が監督となってカメラを回していたりしていて、当時は高価なビデオカメラも持っていたようだ。

40歳の頃、脳梗塞となってから他の病気も併発してしまい、仕事もできなくなって、入退院を繰り返し、寝たきり状態が続いていた。

最期の自宅療養中、亡くなるまで叔母さんが付きっきりで看病していた。
最愛の夫とはいえ、大変だっただろう。

ちなみに、叔母さんは周囲の誰にも助けを求めず、弱音も吐かずに献身していたようだ。
だから、叔父さんも最期まで幸せだったんじゃないだろうか。

トモミちゃんも叔父さんが好きだったので、亡くなった時は本当に悲しかった。

そして、僕がツイートした『葬儀前夜の出来事』が起こる。

葬儀前夜の出来事

その時のことを、トモミちゃんはまるで映画のワンシーンを説明するように、細部まで詳細に記憶していることに驚いた。
霊感が働いた時の風景は、鮮明に記憶してしまうのだという。

トモミちゃんの説明によると・・・

場所は叔父さんの家の広い仏間。日本家屋の畳の和室。

天井の電灯には虫が1匹パタパタと飛んでいて、鱗粉なのかほこりなのかが、きらきらと落ちるのが見えてすごく嫌だった。

畳に、いくつか毛羽立っている箇所があって、足がくすぐったかった。

叔父さんの遺体は、頭を仏壇側にして、顔と体に白色のシーツがかけてあり仰向けになっている。

仏前には、線香の煙が上がり、枕飯(ご飯に箸をたてたもの)が供えられている。

この仏間は、叔父さんが最期に療養していた部屋でもあったため、映画を観るためのテレビとビデオデッキが仏壇と反対側の隅にある。

病院のようなベッドがある。

ベッドの壁には映画のポスターが貼ってあり、タイトルは『タクシードライバー』と書かれていた。この場に全くふさわしくないと思った。かなり前から貼ってあるもので、主役の男の顔が破れていてセロテーブで補強してあったのが、なぜか悲しく感じた。(ロバート・デ・ニーロも悲しいだろう)

夜の8時すぎ。

トモミちゃん、トモミちゃんの家族、叔父さんの兄夫婦が遺体と対面しながら、生前の様子などを話していた。

叔母さんは悲しみが消えず、ずっとすすり泣いていた。

遺体を初めて見たトモミちゃんは、叔父さんはただ寝てるようにも思えたが、生きている人とは真逆の、生命エネルギーが全くの「0」という存在感を感じ、身震いしたという。

そんな中、不意に、かすかに音がした。

「キュイイイイイイイイン」

その場にいた皆が顔をあげ、辺りを見回した。

そして全員が、テレビのほうへ顔を向けた。

すぐに分かったのだ。

この時代の誰もが聞き覚えのある、ビデオテープが再生する音ということが。

ブウウウウ・・・と鈍い音を立て始めたビデオデッキのタイムカウンターが
00:01
00:02
00:03・・・と動いている。

だが、テレビは電源がついてないため、映像は映っておらず、黒い画面には、そこにいた人達の不可解な顔が反射して、どんよりと映っていた。

トモミちゃんの父が、ビデオデッキの電源を切った。

「どうして勝手に再生された?」と皆が思ったが、たいしてつっこまなかったという。

だが、トモミちゃんは、その時『霊感』を察知した。
その頃、すでに日常で『霊感』と呼べる不思議な出来事を体験していたため、驚くことはなかった。

トモミちゃんが言うには、
「死者が意思表示するのはよくあること」らしく、
「映画鑑賞が好きだった叔父さんが、きっと最期に皆と観たくて再生させたのかなって思う」

この日、聞いたのはここまで。

安いアイスコーヒーでお腹がふくれてしまった頃、娘さんが帰宅するとのことで、僕らは解散した。

分からないこと

読者のみなさんはこの話に何を感じましたか?

まっとうな『怪談話』と思いましたか?

それとも期待外れと思いましたか?

僕に同行した友人は「まじ怖ええ!」と言っていた。(なんてハードルの低さだ)

なんだ、正直たいして怖い話じゃないじゃないか。
僕はそう思いました。

詳細にその場面を描写したトモミちゃんの話には、事実の持つ不気味感はある。

遺族としては、気さくな叔父さんが最期に家族に意思表示した『怖くて優しい、ちょい感動話』となると思う。

でも、叔父さんに会ったことのない僕にとっては、漫画化するには、ちょっと弱い題材である。

ちなみに、ビデオデッキに入れっぱなしだったテープが勝手に再生するという現象は、無くはないと思う。
映りの悪いテレビをバンバン叩いて直っていたアナログの時代だけに、ちょっとした振動とかで、作動するかもしれない。
科学的な原因を説明できそうだ。

霊的なものだとしたら、滑稽な話だ。
死んだ叔父さんの霊が、皆と映画が観たくて再生ボタンを押した。けど、テレビの電源を入れ忘れていたので、願い叶わずあの世へ行った。こうするとギャグ漫画にもなる。

その場にいた全員が「キュイイイン」音を聞いたというのも、科学的だからなんじゃないだろうか。

つまりは、たいして怖い話じゃない。

なので、トモミちゃんや叔父さんに悪い気もするけど、ツイート程度でのネタにしただけで、漫画にもせず終わらせたわけです。

霊感=怖い話、という公式を勝手に作っていたことが間違いだったか。
(くそ…それもこれも、全部、冝保愛子のせいだ・・・)

・・・・・・でもね、なんだか、僕はもやもやしていた。

そのツイートをして、しばらくたった頃から、考えることが増えた。

何かが気になる。

何だろう?

話の中で整合性のない内容でもあるのか。

矛盾でもあるのか。

もしくは、あのファミレスのドリンクバーのコーヒーが単品499円だったら、料理を1品注文してセット価格にしたほうが良かった、という後悔からか。

それとも、

本当に霊的な、『何か』が、あるからこその、違和感なのか・・・・・・。

ある日、全く別の漫画のアイデアを考えている時、ふっと、その『何か』に気づいた。

「そういえば、あの再生されたビデオテープの中身って、何の映画だったんだろう?」

ああ、そうか。

申し訳ないが、気になっていたのは、霊的な何かではなかった。

僕も映画好きの端くれとして、単純にそれを聞き忘れていたのだ。

もしかしたら、『ニュー・シネマ・パラダイス』だろうか。

もしかしたら、イカれたデ・ニーロの『タクシードライバー』だろうか。

それとも他の、僕の好きな映画と同じだったら嬉しいな。

あ、ビデオデッキに入っていたということは、生前最後に観た映画ということになるのか。
人が人生最後に観る映画とは一体・・・
ほう、なかなか面白い。

再びワクワク感をおぼえ、その答えを聞くために、トモミちゃんと連絡を取り、会うことになった。
ついでに、最近の霊体験があれば聞かせてもらおうと思った。

・・・・・・結論を先に言う。

僕はこの話の続編とでも言うべきトモミちゃんの体験を聞いて、ワクワク感で会いに行ったことを、心底、後悔した。

なんて浅はかだったんだろう。

全く予期しない方向へと、話は進んでしまった。

後悔? いや、やはり後悔ではニュアンスが違う。

【恐怖】

そう。

それも、過去の怪談話ではない。

現在進行形という、恐怖。

僕は一体どうすればいいのか。

《続く》

警告:この先の話を読む場合、私が自己責任で書いているように、読者の皆さんも自己責任として読んでもらうしかありません。

霊感がなくても、知ることによって、体調や精神に異変を起こすこともありますから。

そして、僕にできることは本当に、何も、ないですから。

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